My Own Private PENDLETON vol.15:土井 光さん (料理研究家)

My Own Private PENDLETON vol.15
ペンドルトンが彩る日常vol.15:土井 光さん(料理研究家)

 

創業以来、160年以上にわたりアメリカを代表するライフスタイル・ブランドとしてそのルーツであるインディジネス・ピープルズ(ネイティブ・アメリカン)はもちろん、アメリカならではの古くて新しいオーガニックな暮らしを彩ってきた<PENDLETON>。「My Own Private PENDLETON」では、そんな日常を編みながら未来へと続くカルチャーを形創る方々をご紹介します。第15回目は、料理研究家の土井 光さんを訪ね、料理をすることで気づく、その国ならではの豊かな暮らしを巡る物語を紡ぎます。

 

フランス、料理人、コロナ禍

――<PENDLETON>は創業以来、ファミリービジネスとしてアメリカならではのライフスタイルを彩ってきたブランドなのですが、土井さんもまた親子三代にわたり、料理研究家として日本ならではの暮らしを豊かに営むきっかけを提案する活動を続けられています。
そもそも、土井さん自身はどのようなきっかけで料理に興味を持ち、仕事にするようになっていったのでしょうか?

 

土井 光(以下「土井」):学生の頃はフランス語学科のある大学に通っていて、日本にいた時はほとんど料理をしたことがなかったんです。大学在学中に1年間フランスに留学していたこともあり、卒業後は漠然とフランスで働きたいなと思い始め、その時に初めて料理を仕事にしようと思いました。日本の専門学校で料理を習うことも考えましたが、フランス語の基礎がある強みを生かしてフランスにある料理学校で学ぶことにしました。
フランスでは年齢も問われないし専門学校ですが大卒資格も取れるので、大学院で学ぶような感覚で受験をしました。幸い合格を頂き大学卒業と同時にフランスに渡り、約3年間の学生生活が始まりました。卒業後はフランスで就職活動をし、三ッ星レストランで働き始めました。
フランスにいた7年間はほとんど日本人のいない環境でフランス料理を学び、料理人として働いてきましたが、とにかく日本のことを聞かれることが多かった。例えば、「抹茶ってなに?」「赤味噌と白味噌の違いは?」など。そもそも日本料理について専門的なことをほとんど知らないし、日本文化を知らな過ぎることを痛感していました。そこで日本のこと、日本料理をしっかり学ぼうと思って日本に戻りました。その後すぐにコロナ禍が始まり、フランスに戻れなくなってしまいましたが…。

 

お味噌知る、OKAERI、きっかけ

――それはなかなか大変なタイミングでの新生活の始まりですね。そこから料理人ではなく、料理研究家としての活動が本格的に始まっていったのでしょうか?

 

土井:そうですね、2年くらいかけて徐々に。それまでは本当に日本料理の経験がまったく無くて。アシスタントとして父の手伝いをしつつ、一から手探りで身につけていくような感じでした。コロナ禍が予想以上に長く続く中でフランスの就労ビザが切れてしまったこともありフランスに戻る事も出来なくなったので、今できることをしっかりやろうと思うしかなかったです。
少しずつ自分なりの基盤ができてきてからは、非常勤で料理学校や大学の講師を始めたり、料理教室やセミナー、イベントをしたりと、徐々に活動の幅を広げていきました。ありがたいことに2021年には父との共著『お味噌知る。』(世界文化社)という本の出版、同時期に『POPEYE Web』さんで「どのみち毎日食べるから。」という今も続く連載を始めさせてもらいました。その連載をまとめた『はじめの自炊帳』(2025年 / マガジンハウス)も出版させて頂きました。その後フランスにも行けるようになってきたので、年に2~3回程行き来しながらイベントなどのお仕事をするようになりました。

 

――昨年の暮れには、フランス大手の出版社・アシェットからも日本料理のレシピ集を出版されていますよね。

 

土井:『OKAERI, ET SI ON MANGEAIT JAPONAIS CE SOIR ?(『おかえり、今夜は日本料理食べない?)』という現地出版社企画・制作の書籍で、フランスの調達しやすい食材を使って気軽にできる日本の家庭料理のレシピ本です。「本物の日本食や食文化を深く伝えたい」というような内容ではなく、フランス人の日々の暮らしの中で作りやすい日本食を自分でチャレンジしてもらい、雰囲気を楽しんでもらう。すべてのレシピにコラムもつけ、料理の背景も理解してもらいながら本物の日本食を食べに日本に来るきっかけになればという気軽な本です。

 

70種類のレシピが掲載されている『OKAERI, ET SI ON MANGEAIT JAPONAIS CE SOIR ?』の撮影は、現地で手に入る食材を使い、器や箸置きなど最低限の日本的な器材だけフランスに持ち込み行われた

 

文化、違い、尊重

――書籍や連載を読んでいて、ほとんど日本人がいない環境で、和食と同じく奥深いフランスの食文化を学び・働き・暮らし、大きな社会の変化も体験しながら自然な流れの中で日本食に興味を持った土井さんだからこそ、日仏どちらの読者にとっても説得力があると思いました。
<PENDLETON>も、毛織物の技術を持つイギリスからの移住者たちがネイティブ・アメリカンとの文化の違いを尊重して、彼らの暮らしを彩るために生まれたブランドなので、そのスタンスに通じるところがあるように感じます。

 

土井:違うことは当たり前で、まず相手の当たり前を受け入れて理解すること。
もちろん当初は「この人たちなんか違う! 日本なら〜なのに!」と感じることはありました。しかしそんな感覚を無くし、違いを自然と尊重することができるようになったのは、学生時代の30カ国以上の多種多様な仲間たちのおかげです。
自国に誇りを持ち、自分が勉強すると決めたフランスへの敬意もしっかりと持っていた彼らは私を大きく変えてくれました。

 

祖父や父のレシピも受け継ぎつつも、家族構成や食生活の変化がある中で、現在の暮らしにあわせた形でアップデートしていく必要があると思います

 

料理研究家、伝統、アップデート

――フランス料理しかり和食しかり、どちらも長い伝統と複雑な文化を持つものだからこそ、残すところは残しつつ、時代に合わせてアップデートしていく部分も多いのではないかと思います。

 

土井:「料理研究家」という職業はそのアップデートに寄り添っていく職業だと思います。日本に帰国し父と一緒に働いてみて、料理人と料理研究家の違いを深く理解しました。前者は外食ベースでお客さんに喜んでもらいビジネスもしなければいけない。流行をキャッチすることも大事です。しかし後者は基本は家庭や個人に向いていて、暮らしの変化に合わせつつも、より伝統や文化に向いていくことができるのではないかと思っています。
料理研究家だった祖父(故・土井 勝)はNHKの「きょうの料理」の中で、当時の人数の多い家族形態に寄り添った、皆で食卓を囲みながらゆっくりと食事を楽しむことに重きを置いていました。そして父の時代になると、核家族化や共働きがどんどん進みます。働くお母さんでも無理なく暮らしていけるように「一汁一菜」の考えを提案しました。
そして私の時代。結婚しても家族を持っても多種多様の歩み方があります。コロナ禍を経て外食文化からデリバリー、テイクアウトも身近なものになりました。そして物価高の時代。環境問題も山積みです。だからこそ、暮らしや身体を整える時代ではないかと思っています。祖父や父のレシピも受け継ぎつつも、家族構成や食生活の変化がある中で、現在の暮らしにあわせた形でアップデートしていく必要があると思います。常に新しい情報をスマートフォンから得る時代ですが、少しだけでも自炊してみると、自分が暮らす国の食文化のこと、食材のこと、自分や家族の健康のことなど、自分自身で気づくことができます。これが私の伝えていきたいことです。

 

 

料理、めんつゆ、気づき

――もちろん、しっかりと産地や食材を提示しているレストランやお弁当、お惣菜なども増えてきていますけど、実際に料理をするとなると、否応なしに色々と見つめ直すきっかけになりますよね。

 

土井:「食」って、生きていくために欠かせないものなので、暮らしの中で占める金額も大きくなる。せっかくお金を使うなら、楽しんだ方かいいじゃないですか。毎週金曜は友だちと沢山遊びたいから普通の日は体調を整える食事を摂ろう。お金が掛かるから、時間がないから、自分好みの味付けにしたいから、料理が好きだから。理由はなんでもいいんです。料理をすることで体調とお財布を整えられる。
そして特におすすめしたいのは、調味料に少しこだわることです。普通の食材でも全然違った仕上がりになります。醤油や塩だけでも大丈夫。少しいい調味料に投資するだけで、人生が変わってくると思います。
例えばめんつゆって結構簡単に自分で作れるんです。醤油とみりんと鰹節と水だけで作れます。自分好みの醤油やみりんを使うと、劇的に美味しくなる。料理や気分に応じて鰹節を煮干しにしたりとか甘めにしたり辛めにしたり、自分で調整できる楽しさもありますよね。

 

――ひとり暮らしだと、めんつゆって多すぎで、気づくと賞味期限切れになっていること多いですよね。自分で作るなら量も調整できるから、楽しそうですね。

 

土井:鰹節が醤油の中に混ざっていたら、本来保存はそんなに効かないもの。それが開封後長期間持つというのは、やはりそこに保存料が入っているから。添加物に気をつけたいと思ったら、やっぱり必要な分だけ作る方がいい。料理をすることで食材が気になるし、自然と色々な気づきに繋がっていくと思います。
便利な世界になって効率よく暮らせる時代だからこそ、経済的にそぐわないものは消えていってしまう可能性も高い。まだあるうちに自分が納得するものを知り、選んでいくようにしたいですよね。それって、「食」だけじゃなく、「衣」や「住」に関しても同じようなことが言えるんじゃないかと思います。

 

便利な世界になって効率よく暮らせる時代だからこそ、経済的にそぐわないものは消えていってしまう可能性も高い。まだあるうちに自分が納得するものを知り、選んでいくようにしたいですよね。それって、「食」だけじゃなく、「衣」や「住」に関しても同じようなことが言えるんじゃないかと思います

 

天然素材、知る、日本の食文化

――確かに、エアリズムやヒートテックのような機能性の高い素材が普通になってきたらこそ、常に肌に触れるものはやはりコットンやメリノウールとか、天然素材のものがいいと言う人が増えてきていますよね。

 

土井:もちろんファストファッションも素材やデザインなどのクオリティが高くてとてもよいと思いますが、<PENDLETON>のウール製品やブランケットのような歴史のある品質の良い素材のものをそこに一つ混ぜていくだけでもいいですよね。きちんとした質のものは肌に良くて長く使えて結果的にコスパが良い。すぐには買えないかもしれないけれど、まずはそういう存在を知って理解したうえで、無理なく今の自分の暮らしの中に取り入れていくのが良いと思います。
フランスは、食はもちろんファッションでも地球環境や持続可能性を意識した経営や暮らしが浸透し始めています。私は食を通じてそんな感覚を日本でも広めていければいいと思います。

 

建築家の坂茂さんが設計した土井さんのアトリエ、「おいしいもの研究所」の庭にて

 

<プロフィール>
土井 光
どい・ひかる / 料理研究家。大阪生まれ東京育ち。大学卒業後に渡仏。フランスリヨンにある料理学校ポール・ボキューズ学院で学び、卒業後はフランスの三ツ星レストランや老舗菓子店で働く。在仏7年の後に帰国。現在は「土井善晴おいしいもの研究所」勤務。フランスにて日本の家庭料理文化の講義、イベントのマネージメントなどを行う。北海道北斗文化学園特任教授。白百合女子大学非常勤講師。著書に『お味噌知る。』(世界文化社)『はじめの自炊帳』(マガジンハウス)『OKAERI, ET SI ON MANGEAIT JAPONAIS CE SOIR ?』(Hachette)などがある。

Official HP&Instagram
https://oishiimonok.com/
https://www.instagram.com/hikaru___doi/

POPEYE Web ポッドキャスト連載「どのみち毎日食べるから。」
https://popeyemagazine.jp/category/donomichi-mainichi-taberukara/

 

photography:Ai Iwane
text:K2
edit:Sohei Oshiro(CHIASMA)

 

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