
My Own Private PENDLETONvol.7
ペンドルトンが彩る日常 vol.7:萩原亮大さん(華道家 / 雅号:界然)
創業以来、160年以上にわたりアメリカを代表するライフスタイル・ブランドとしてそのルーツであるインディジネス・ピープルズ(ネイティブ・アメリカン)はもちろん、アメリカならではの古くて新しいオーガニックな暮らしを彩ってきた<PENDLETON>。新連載「My Own Private PENDLETON」では、そんな日常を編みながら未来へと続くカルチャーを形創る方々をご紹介します。第7回目は華道家として独自の活動を続ける萩原亮大さんをお招きして、インディジネス・ピープルズと日本人が共有する「人と自然が共にある世界」の物語を紡いできました。

ファッション、旅、華道
――萩原さんは、ファッション業界を経て華道家としての活動を始められ、伝統を尊守しつつ他ジャンルのアーティストとのコラボレーション作品の制作なども積極的にするなど、独自の「華道」を追及する活動を続けていますが、そもそもどのようなきっかけで「花」に興味を持つようになったのでしょうか?
萩原亮大(以下「萩原」):もともとファッションやそれを共に形作るカルチャーたちが好きで、専門学校卒業後、ファッション・ショーの演出家の方に弟子入りをして頑張っていましたが、ある時から「この後の人生をずっとファッションに捧げられるのだろうか?」という想いが芽生えてきたんです。
そんな想いを抱えながら仕事で関わったショーに使われた花を片付けていた時に、漠然と「これかも」という感覚がしたんです。その瞬間、「僕と花」だけの時間が流れたのを今でも覚えているのですが、それはとても新鮮な感覚でしたね。
若い頃からバックパックを担いで海外を周っていて、世界を舞台にしたクリエイティブを求めていたこともあり、日本の伝統文化でもある「生花」に興味を持つようになりました。
色々と掘り進めていくうちに草月流の竹中麗湖氏に出会い、華道の世界にのめり込んで行きました。草月流は生花の中では歴史が比較的若いためオリジナリティを大切にするような空気もあって、自分の性分にあっていると思ったんです。
華道家として活動を始める直前、まだ様々な葛藤はあったんですけど、花切り鋏ひとつ持って約30カ国を周る旅をしました。その道中での体験から「花と共に生きていく」ことを決意して、現在に至る感じです。
『REVS Japan Vol.1』に掲載するために作成した作品掲載(画像:©︎Federico Cabrera)
生けること、弔うこと、土地が喜ぶこと
――「花を生けることは花を弔うこと」という信条のもと、やがて枯れゆく花の命を人々の記憶に残すことをご自身の信条とされている萩原さんの作品は、美しいことはもちろん、ストーリーやメッセージだけでなく、以前拝見したライブ・パフォーマンスではその場を共有する人それぞれの体験を含め作品化していて、その独自の世界観に触れ感動しました。
萩原:ありがとうございます。花を生けることって、そもそも有限な植物の命をいただくことで、いつかは枯れゆくもの。でも人の記憶やその先にある想像力は無限で、さらに鑑賞していただいた方々が日々の暮らしを編んでいくなか何かのきっかけでその体験を思い出し、それぞれの想いが加わることで、形を変えながら残り続けていくものだと思う。
確かに花は枯れますが、人の記憶の中では枯れない花、忘れられない花を生けることを心掛けています。
それから僕は、綺麗な花を使って綺麗に花を生けることは誰にでもできると思っていて、華道家としてその先にあるものを表現していきたいと思う。例えば、地方の神社仏閣などからお声掛けいただくことも多いのですが、「その土地が喜ぶことをする」ことを一つの哲学として作品を作り続けています。
「綺麗な花を使って綺麗に花を生けることは誰にでもできると思う。『その土地が喜ぶことをする』ことを一つの哲学として作品を作り続けています」
アトリエに置かれていた、作品の素材たち。
浸る、見過ごされた美しさ、DNA
――具体的にはどのようなことをするのでしょうか?
萩原:可能な限りその土地とちの人や自然、文化に浸りながら自分なりに解釈して作品を作るようにしています。地元の方々にリサーチしながら現地で山に入って用意することも多いのですが、そんな過程を経て作られた作品を通して、見過ごされていたその土地ならではの美しさに気付くきっかけを作れたらと思っています。
どんどん人と自然との距離が離れていくなかで、もともと自然の中に神々を見出し、八百万の神々を信仰してきた日本人だからこそ、それぞれが暮らす地域の自然の美しさや、そこから生まれた文化に触れることで、DNAにプログラミングされているはずのそんな感覚を、より多くの人が思い出していけたら素敵なことだと思うんです。
萩原さんがタオルケット代わりとして重宝している、「Fire Legend」パターンのオーバーサイズタオル
北山耕平、セブン・ジェネレーション、八百万
――<PENDLETON>のルーツとも言えるインディジネス・ピープルズ(ネイティブ・アメリカン)の暮らしの中にも、そんなアニミズム的な感覚は色濃く存在し続けていて、彼 / 彼女たちと共に作り続けてきた様々なパターンたちはその世界観が表現されています。
萩原:どっぷりとファッションに浸かっていた頃からネイティブ・アメリカンのシルバー細工やパターンが大好きで、<PENDLETON>も愛用していました。北山耕平さんの著作などでイロコイ族の「セブン・ジェネレーション」、つまり「どんなことでも7世代先のことを考えて決めなければならない」という思想を知って、自然と共感できたんです。
例えば、木を一本伐るにも魚を一匹捕る時にも、常に「7世代先の子孫のためになるか、彼らが困らないか」という価値観を基準にしているんですけど、そんな思想が自然に織り込まれた彼らの暮らしを彩ってきたパターンたちは、八百万と共に暮らしてきた私たち日本人の暮らしにもスッと入ってくると思うんです。
華道家として本格的に活動するようになってからは、深夜まで創作に没頭して早朝に大田市場に生花の買い付けに行くことも多いので、寝過ごさないようにアトリエのソファで寝るようにしていて、オーバーサイズのジャガード織りのタオルをタオルケット代わりに愛用しています。
花を消費してばかりの僕ですが、「何をどう残すのか」という命題には、これから時間をかけてじっくり向き合っていきたいと思っています。
「(インディジネス・ピープルズは)常に『7世代先の子孫のためになるか、彼らが困らないか』という価値観を基準にしているんですけど、そんな思想が自然に織り込まれた彼らの暮らしを彩ってきたパターンたちは、八百万と共に暮らしてきた私たち日本人の暮らしにもスッと入ってくると思うんです」
萩原さんが手掛けた四国最古の禅寺・城満寺(徳島県)の石庭で制作した「龍神轟」(画像:©︎脇 秀彦)
ナバホ族、石庭、完成は1000年後
――萩原さんの「花を生けることは花を弔うこと」という信条や「その土地が喜ぶことをする」という哲学、そして「何をどう残すのか」という命題は、場所を越えて間違いなく彼らの思想と共有する部分が多いと思います。
萩原:そう言っていただけると嬉しいです。同じくネイティブ・アメリカンのナバホ族に伝わる「大地は先祖から譲り受けたものではなく、子孫から借りているのだ」という格言があるんですけど、「完成は1000年後」というコンセプトで徳島県にある四国最古の禅寺・城満寺の石庭を手掛けさせていただいた際に、同地に自生し時には1000年以上も生き続けるアコウの木を象徴的に植樹して、そんなリンクを自然と感じることができたんです。
もしかしたら1000年後には地球は存在していないかもしれない。だから石庭に訪れた時くらいは「10年後、100年後、1000年先の地球ってどうなっているんだろう」と考えるきっかけになってくれれば嬉しいですね。
日常の中でも、スマホを触っている時間の半分を土だったり花だったり、自然に触れるようになれば、世の中が変わると思う。人も自然の一部だということを無理に理解しようとするのではなく、体験を通じて感じることが大切なんだと思うんです。

<プロフィール>
萩原亮大
はぎわら・りょうた / 2016年より華道家(雅号:界然)としての活動をスタート。「花を生けることは花を弔うこと」と捉え、その意味を探求しながら花自身をも喜ばせ人の記憶に残る花いけを志す。生命力あふれる力強い作品やダイナミックなLIVEパフォーマンスを、神社仏閣など全国で展開。国内外を旅しながらその土地の人・自然・文化を混ぜ合わせ「土地が喜ぶ」作品をつくり続ける。四国最古の禅寺での石庭プロデュースや茶の湯のアート集団「The TEA-ROOM」メンバーとしてのアーティスト活動など多彩な表現で花の可能性を追求。多ジャンルのアーティストやブランドとのコラボレーション作品の制作やイベントなど、独自の「華道」をさまざまな形で追求し続ける。
【代表作品】
2016年3月福島県で行われた震災の式典と音楽祭から成るイべント福魂祭にて献花作品「福魂天翔」を制作。2017年には四国最古の禅寺・城満寺(曹洞宗)にて「龍神轟」を制作、現在は同寺にて石庭もプロデュースする。京都、臨済宗・一休寺、栖賢寺、東京では増上寺などで奉納献花、作品提供。また2018年秋にはダライラマ法王の来日イベントにて装花「法王と鳳凰」を制作。カンヌ国際映画祭公式GALA Partyでは現地にて2年連続でライブパフォーマンスを披露した。
HP
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photography:Masaru Tatsuki
text:K2(SHATEKI Inc.)
edit:Sohei Oshiro(CHIASMA)