
My Own Private PENDLETON vol.6
ペンドルトンが彩る日常 vol.6:平山繁之さん(ワイン醸造家)
創業以来、160年以上にわたりアメリカを代表するライフスタイル・ブランドとしてそのルーツであるインディジネス・ピープルズ(ネイティブ・アメリカン)はもちろん、アメリカならではの古くて新しいオーガニックな暮らしを彩ってきた<PENDLETON>。「My Own Private PENDLETON」では、そんな日常を編みながら未来へと続くカルチャーを形創る方々をご紹介します。第六回目は山梨県甲州市で<98WINEs>のオーナー醸造家・平山繁之さんをお招きして、「場所文化」としてのワインの物語を紡ぎます。

福生里、ワイン、場所文化
――50軒近くの大小さまざまなワイナリーがひしめく山梨県甲州市の中でも、ぶどう畑が一面に広がる勝沼地区ではなく、塩山福生里という山に囲まれた小さな集落に、ひときわ個性を放つ<98WINEs>はあります。
国内外で40年以上にわたりワインと向き合い、日本ワインの進化を牽引してきた平山さんはこの場所にワイナリーを構え、農薬を使わずに地元で育てられた「マスカット・ベリーA」と「甲州」という日本固有種である2種類のぶどうのみを使い、これまでの技術と経験を駆使して徹底的に発酵醸成の環境を整えながらぶどう本来の力を発揮させるミニマルな手法で醸造をされていますが、どうしてこの場所を選んだのでしょうか?
平山繁之(以下「平山」): そもそも僕は、「ワインは場所が造る」お酒だと思っているんです。この地に根づいた品種や菌、温度や風など、この風土こそがワインを生み出す。
ビールや日本酒、ウィスキーなど、杜氏やマイスターなど技術者が不可欠なのが「文明のお酒」であり、ワインはそうではない。いい場所さえあれば、何もしなくても美味しいワインはできる。つまり、ワインは「場所文化のお酒」なんです。
僕は技術者でも何でもなくて、葡萄を摘んできて樽に足を入れたら足で踏んで終わり。ただ何もしないでいいものができる場所で、髪を振り乱しながら汗をかけば、美味しいワインができると思っています(笑)。
そんなワインならではの「場所文化」を体感してもらいながら、ワインを通じてさまざまなフィールドの友人たちとコラボレートしながら、一度訪れたお客さまが何度も足を運びたくなるような体験を提供していくために、この場所からしか味わえない富士山を借景にした美しい風景を活かした、日本だけでなく世界からも「かっこいい」と思われるようなワイナリーにできたらと思い、この場所でワイナリーを始めました。

<石の棟>の屋根の上にポツンと置かれた椅子。晴れた日にはその先に富士山を望む絶景が広がる。
鉄、石、木
――デザイン性が高いのに地域の景観にも自然とマッチしていて、本当に素敵な空間ですね。
平山:そう言ってもらえると嬉しいです。
ワイナリーは、醸造を行う「鉄の棟」、貯蔵を行う「石の棟」、ワインを試飲したりしながらお客さんや仲間たちが集える「木の棟」から成っています。「鉄の棟」は黒を基調に、「石の棟」は福生里集落でよく見られる石垣を用いて、「木の棟」はもともと建っていた古民家をリノベーションした空間で、一階がダイニング・スペース、二階は大きな窓越しに富士山を一望しながらワインを飲みつつゆっくり過ごせるフリースペースで、リラックスして昼寝するお客さんも多いですよ(笑)。
ビールや日本酒、ウィスキーなど、杜氏やマイスターなど技術者が不可欠なのが「文明のお酒」であり、ワインはそうではない。いい場所さえあれば、何もしなくても美味しいワインはできる。つまり、ワインは「場所文化のお酒」なんです

<98WINEs>の商品。右から「霜(SOU)」 白 '24 750ml 2,750円、「霜(SOU)」ロゼ '24 750ml 2,750円、「芒(NOGI)」白 '24 750ml 3,850円。
アート、フランス、醸造
――以前に訪れたとき、あまりに気持ちよすぎて、気づいたら寝落ちていました(笑)。平山さんはそもそも、どういう経緯でワイン造りに携わるようになったのですか?
平山:スタートは、食べるためですね。もともとアートの世界を志していて、1970年代に高校を卒業した後、フランスのエコール・デ・ボザール(高等美術学校)で学んでいました。当時のフランスの銅版画が大好きで、自分もそれで食べていきたいと思って。少しだけそれで食べられていた時代もあったんですけど、最終的にはやっぱり食べていけなくて、それで日本に戻り少しお金を稼ごうかと思っていた時に、たまたま声を掛けてもらったのが<メルシャン>で、そのままそこに居着いてしまった。
――フランス時代にワイン造りを経験したりしていたのですか?
平山:まったくないです。ただ、学食でもワインがあったし、ミネラルウォーターよりワインの方が安かったから、よく飲んではいましたけど(笑)。
それで、当初は自分の意にはそぐわなかったけれどお世話になることになった<メルシャン>のワイナリーが勝沼にあって、最初はアルバイトから始まり、社員になって醸造にやっかいになるようになった後、会社から「本格的にワインの勉強をしてきなさい」ってことで、今度はブルゴーニュ大学に派遣してもらったんですよ。給料をもらいながら3年間また学生をやらせもらって、夢のような日々でした(笑)。
帰国してまた数年醸造に携わった後にメルシャン・グループがビール会社のキリン・グループの一員になることになり、「場所文化」の文化から「文明のお酒」に変わっていく流れになっていったので、そのタイミングで辞めさせてもらったんです。
その後は、<勝沼醸造>の経営陣として招いてもらい経営に携わりながら、東京で仲間たちと「場所文化フォーラム」という活動を始めた。その一環で、丸の内で<にっぽんの…>という居酒屋を運営したりしながら、より「環境」や「地域」を意識した活動にシフトして、経済活動から少し距離を置いてみたら、すごく楽になったんです。良いことをしている気にもなるしね(笑)。
「場所文化フォーラム」は仲間たちと10年間やると決めていて、そのあとはそれぞれがゆかりのある場所に戻ってそれぞれの活動することにしていたので、2016年に解散して、2018年に自らのワイナリーである<98WINEs>を立ち上げました。

2022年にオープンしたオーべジュ<STAY366>。一階はブルワリーの<98BEERs>が併設されている。
信頼関係、<98BEERs>、<STAY366>
――そんな<98WINEs>さんのワインはとても人気で、遠方だとなかなか入手しづらいので、山梨にきた際にワイナリーに立ち寄る時間がない時には、塩山の「新田商店」さんなどで買って帰っています。
平山:ありがとうございます。営業的なことばかり考えるのは嫌だし、売れる分しか作っていないんですよ。いまは、オンラインショップの他には、信頼関係が築けている全国で8つの酒屋さんを通して各地のレストランなどにも卸してもらっていて、実際に口にしてもらえるお客さんとも触れ合うため、できるだけ卸先にも足を運ぶようにしています。
――平山さんは以前、ビールも大好きだと仰っていましたが、2022年からはワイナリーの近くにブルワリーの<98BEERs>をオープンされましたよね。
平山:造り方の違いはあれど、ビールも美味いからね(笑)。ワイナリーも軌道に乗ってきて、ここから近くの、福生里集落の最奥の土地にあった東京の幼稚園の保養所だった建物を見つけて、そこをリノベーションして1階にクラフトビールの醸造所、2階に一日2組限定のオーベルジュ<STAY366>を始めました。時間を気にせずにワインとビール、そして蕎麦懐石のコースをゆっくりと楽しんでもらえる場所になっています。
ビールを始めたのは、ただただビールが好きだというのとは別の理由もあって、ワイン造りを途切れさせないようにするため。ぶどうが獲れない年があった時に、造ることができないんですよね。そんな時に売れるものを置いておくっていうのが、僕にとってはビールだったんですね。原料が乾き物なので、どこからでも手配できるから。
実際、今の施設だとワインの製造量が既に100%近くになっているので、これ以上はできないし、無理をしてまで増産するのも違うと思っていて。ビールの方はまだ1/4も作っていないからまだまだ余裕があるし、ホテルは火曜と水曜は休みにしているんですけど、おかげさまで開けている日は半年くらい先までほぼ埋まっているような状況になってきています。

集落、実験、細胞分裂
――先日、<98WINEs>や<98BEERs>、<STAY366>や昨年新たにオープンした一棟貸しのゲストハウス<一木 -hitotsuki->のみなさまにもご協力いただき、<PENDLETON>の25FWのシーズン・ビジュアルを撮影させていただきましたが、国内外から様々な方々が集まってきていて、にも関わらずまるで一つの集落というか親戚のような感じで働いているのがとても印象的でした。
ランチタイムには「木の棟」で一緒に料理したり、ワインやビールを飲みながらみんなでランチを食べたり、その後、昼寝する人もいたり。みなさん、とても楽しそうに働いているなぁと感じました。若い方も多いですが、地元の方が多いのですか?
平山:今いるみんなは、ほとんどが地元以外の出身ですね。そもそも放って置いたらあと10年もすると持続できないかもしれない集落をどれだけ持続可能な場所にできるのかという実験でもあるので、外からきた人がいた方が新しい発想が生まれて良いと思っています。
最初からこういうスタイルを目指していたかどうかは別として、僕自身、いま自分がやっていることを好きになるっていうマインド調整はしています。要するに、好きなことをやるんじゃなくて、いまやっていることを好きになると、結果として自分は好きなことをやっていることになるので。
いまの若い子たちって、自分が好きなことをやりたいからまずはそれを探すけど、やりきれていないことが多いと思うんです。実際にそんな感じでうちに訪ねてくる人もいて、「それならうちにきてまずは働いてみたら?」って。
もしかしたらまだここでは実現できないこともあるかもしれないけれど、試してみてから場合によっては外に出ていって少し違うことをしてみて、また98に帰ってきて錦を飾ってくれればいいんじゃないのっていう、そんな感覚でやっているんですよね。
ちょうどいま中心になってお昼の賄いを作ってくれている女性がこんど小料理屋を開きたいと言っているんだけれど、それを僕が先導して開いてあげるんじゃなくて、やりたいことが見つかった人のお手伝いをするみたいな。そんな感じで前にも勝沼のほうに<ヤギとライオン>というワインバーができたりした。
そうやって、この集落だけじゃなく街の方とかいろんなところに細胞分裂していって、それがまたその先で細胞分裂しさらに広がっていったら面白いと思うんです。
<PENDLETON>さんにも「場所文化」を感じます。ブランケットの柄も、ネイティブ・アメリカン(インディジネス・ピープルズ)や国立公園などその土地とちに根差したものですし

コミュニティ、デザイン、違いのわかる男
――ワイナリーからホテルに向かう道中が、建物的にもある美的感覚を共有しながらデザインされていて、一つのコミュニティになっているような感じがしました。
平山:やっぱりデザインは大切で、かっこよくないと人は集まってこないと思うから。
――「場所文化」であるワインを軸に、ビールという技術のお酒も交えながら、ある種家族のように形作られている98さんのコミュニティは、ペンドルトンという場所に根差しながらファミリー・カンパニーとして160年以上ウール製品を中心に作り続けている<PENDLETON>と共有する何かがあるのではないかと感じました。
平山:確かに、<PENDLETON>さんにも「場所文化」を感じます。ブランケットの柄も、ネイティブ・アメリカン(インディジネス・ピープルズ)や国立公園などその土地とちに根差したものですし。
ワインもそうですけど、生産背景なども含めてしっかりとした物作りをしているものはやはりそれなりの価格になってしまう。昔、「違いのわかる男」というCMがありましたけど(笑)、やはり違いがわかる人たちによりその価値をわかってもらえるような伝え方をしていかなければならないのかなと思います。
やはり<PENDLETON>さんのブランケットは丁寧に作られていますね。<STAY366>では、寝具やカーテンなどのファブリックはフジの湧水で洗った羽毛や繊維など、山梨という土地に拘ったもので揃えているのですが、山梨産のウールブランケットなどはないので、いつか<PENDLETON>さんのものを取り入れられたら素敵だと思います。

<プロフィール>
平山繁之
ひらやま・しげゆき / 1958年神奈川県横浜市生まれ。ワイン醸造家。98WINEs合同会社代表。フランスの美術学校で美術を学んだ後、1981年から2007年までメルシャンにて醸造、品質管理、製品開発を行う。この間に3年間ブルゴーニュ大学で醸造学を専攻。同社退社後は<勝沼醸造>で専務、副社長を歴任。2017年に独立後、98WINEs合同会社を立ち上げ、現在に至る。
<98WINEs>
https://98wines.jp/
instagram
<98BEERs>
https://98beers.stores.jp/about
instagram
<STAY366>
https://www.stay366.jp/