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My Own Private PENDLETON vol.1
ペンドルトンが彩る日常 vol.1:野村友里さん(料理人) 

 

創業以来、160年以上にわたりアメリカを代表するライフスタイル・ブランドとしてそのルーツであるインディジネス・ピープルズ(ネイティブ・アメリカン)はもちろん、アメリカならではの古くて新しいオーガニックな暮らしを彩ってきた<PENDLETON>。新連載「My Own Private PENDLETON」では、そんな日常を編みながら未来へと続くカルチャーを形創る方々をご紹介します。第一回目は料理人の野村友里さんを訪ね、「周回遅れの最先端」にまつわる物語を紡いできました。

 

取材でお邪魔した<eatrip soil>にて。


ニューメキシコ、CHIEF JOSEPH、オキーフの家

――<PENDLETON>との出会いを教えてください。

野村友里(以下、「野村」):<WONDER VALLEY>というカリフォルニア産のオリーブオイルを使ったプロダクトのブランドを主宰しているジェイ・キャロルという友人とニューメキシコを旅した時に、彼がリノベーションした同地でいちばん古いモーテルに泊まったんです。「Grandeur in Simplified Living(=暮らす場所の生態系と文化に合う偉大なるシンプルな暮らし)」を実践しているジェイならではの感性を体感できる空間に、この柄(「CHIEF JOSEPH=チーフジョセフ」)のヴィンテージのブランケットが置いてあって。

旅先で出会ったジェイの友人で、食材や器も全部自分で作り料理として体感する「shed Project」という作品を手掛けている、インディジネス・ピープルズの血をひくアーティストのジョニー(・オルティス-コンチャ)からも、<PENDLETON>はルーツであるインディジネス・ピープルズに対して敬意を持ち続けながら彼 / 彼女たちのために丁寧に織られていると聞いたりもして、自分も欲しくなり街中にヴィンテージを扱うとても素敵なお店があったので覗いてみたら、いいなと思ったものが100万円くらいしていて、その時は流石に買えなかった(笑)。

 

旅の途中に訪れたジョージア・オキーフの家。©️Yuri Nomura

 

――世界中でヴィンテージや古着の<PENDLETON>のマーケットが確立しているのですが、それは流石にお高いですね(笑)。ところで、<PENDLETON>のブランケットの、どんなところが気に入ったのですか? 

野村:せっかくニューメキシコにきたらやっぱり画家のジョージア・オキーフの家を見たくなりジェイと一緒に訪ねたら、乾いた空気の中に広がる砂漠や土壁のベージュ、それに高くて青い空、たまに見かける植物の差し色の中にいると、このブランケット(ベージュ基調と水色基調の「CHIEF JOSEPH」パターン)が自然と溶け込んできたんです。黒とかだと、なんだか違和感を感じるような景色で。

一日の寒暖差が激しいからジェイが車の中にブランケットを置いてくれていたんですけど、それを使わせてもらっているうちに、そんな空間に妙に馴染む気がして。都市の中だとただ目立つ方にいってしまいがちだけれど、水色は空と馴染むし、オレンジは綺麗な鳥みたいに馴染んでくる。自分も、その土地が生んだ景色の一部になるような。日本だと、車で軽井沢に行く時とかにちょうどいい感じかな。

もちろん現行品も安価ではないけれど、作りもしっかりとしていて長く使えるから、経年変化が楽しめるところもよいなと思いました。

 

「乾いた空気の中に広がる砂漠や土壁のベージュ、それに高くて青い空、たまに見かける植物の差し色の中にいると、このブランケットが自然と溶け込んでくるんです」

 

調味料入れとして使用しているLA在住の友人で陶芸家の渡邊翔士さんによる一点ものの作品たち。西海岸の乾いた空気に映える釉薬から生まれる独特の色使いが、どことなくCHIEF JOSEPHパターンにも通じる雰囲気。

 

祐天寺、babajiji、一軒のお家

 

――野村さんが新たに祐天寺で始められた<babajiji house >も、まさにそうした手作りだったり、古くからあるものを大切にすることがコンセプトになっているのですよね?

野村:原宿でやっていたレストランを、商業施設の開発が始まったり色々な流れで一旦閉めることになって。暮らしに近い街並みが東京の中にもまだ残っていると楽しいなと常々思っていたんですけど、ひょんな縁から伺った目黒区の祐天寺にはあまり高いビルもなく商店街なんかもまだ残っていて、そんな場所で暮らしとお店が一緒になるようなことをできたらと思って始めたんです。

<babajiji house>という名前は、実は20年近く会社名として使っていて、おじいさん・おばあさんになっても仲良く、長く続けていけたらいいよねっていうことでつけました。

商店街の古い建物を再利用した空間の一階は<The Little Shop of Flowers>というお花屋さんと食材屋さんがあって、表参道の<GYLE>ビルにある<eatrip soil>のグローサリーショップで扱っているものの一部を扱っています。二階は<eatrip kitchen>というレストランなんですけど、お花屋さんが庭先、グローサリーが貯蔵庫でのその上にダインングキッチンや<YES SHOP>というリビングがある、一軒のお家のようなイメージのスペースになっています。

 

©︎K3

 

茅葺き屋根、周回遅れの最先端、長屋

 

――<babajiji house>って、とても素敵な名前ですね。お店にもうかがったのですが、なんだかタイムスリップしたような、独特な雰囲気がある一角でした。

 

野村:そうなんです、実は明治時代に建てられた東京最古の茅葺き屋根の家が残っていたり。この地域はあまりデベロッパーが進出していないからなのか、土地の持ち主が個人のままで、子どもからお年寄りまで暮らしている、昔ながらのコミュニティがまだ感じられる。

そう言えば数年前に「衣・食植・住」というプロジェクトを始めて、「住」をテーマにした回では稲藁の茅葺きを中心にした展示をしたんです。茅葺きって、だいたい30年ごとに葺き替えるんですけど、それがたくさん太陽や水を浴びて最高の堆肥になり、最高の堆肥は最高のお米を作ってくれる。

それは永久的な循環で、それが都心の住宅地にも残っていて今でもそこに暮らす人の生活の一部に存在することって、例えば「SDGs」と言われるような最先端のことだと思う。茅葺きの職人さんが言っていたんですけど、「周回遅れの最先端」が、そこにはある。

近くには幼稚園があって、その茅葺き屋根の家の大家さんだったりもするのだけれど、幼稚園に通う子どもたちから地域で暮らすお年寄りの方々まで、世代を越えて改めてそんな価値観を伝えていくために、まだ実際に何ができるのかわからないけれど、まずはみんなが集えるお家のようなお店を作ってみた感じです。

今は結構シャッター街になっていて、閉まっている商店街の建物も多いんですけど、そこに創作の場所を求めて地方に出て行ってしまった手に仕事のある人たちが集まって、例えばそこで二拠点暮らしをしながら少しづつ修繕してモノづくりをしていけるような長屋にしたり、このエリアをモノづくりの街にしていけたらいいなって勝手に妄想したりもしていて。

こうやってそんな妄想を含めて色々とお話ししていくことで、「周回遅れの最先端」を実感できる街が形創られていくきっかけを作れたらいいなと思っています。

 

「『周回遅れの最先端』を実感できる街が形創られていくきっかけを作れたらいいなと思っています」

 

 

「もと」を巡る、グラデーション、未来

 

――160年以上の間変わらずにクラフト的なモノづくりをしてきた<PENDLETON>もまた「周回遅れの最先端」として、そんな街で暮らす人たちの日常に馴染んだらきっと素敵だと思います。

野村:きっと馴染むんじゃないかな。やっぱり昔から残っているものって大事なもので、大事なことは「もと」を巡ると見えてくると思うんです。「もと」を知ると、自分に必要ないものが省けていく。本当に大切なものって、そんなに多くないんじゃいないかな。

時間が経たないとその良さが見えてこないことってよくあると思う。生き方もそう、迷ったりブレることもあると思うけれど、自分の人生を見返してみると、原点回帰というか「もともと自分っていいものを持っていたじゃない」っていうこと、ありませんか?

それに人生100年って言うけれど、一人で100年生き切るのではなくて、そこにはグラデーションがあると思うんです。子どもや孫に受け継ぐとか、重なり合いがあってここまで来ていると思うから、自分たちも何か育ててなければと思っていて。自分にとって大切なものをしっかりと見極めて、未来へとつなげていけたら素敵なことだと思う。

<babajiji house>は、子どもからお年寄りまで心地よく混ざり合いながら、一緒に未来を育んでいけるような場所にしていきたいですね。

 

profile

野村友里
のむら・ゆり / 東京都生まれの料理人。長年おもてなし教室を開いていた母の影響で料理の道へ。アリス・ウォータース率いる<シェ・パニース>で修業した経験をもつ。ケータリングフードの演出や料理教室、食のドキュメンタリー映画『eatrip』で監督を務めるなど、幅広い活動をしている。2012年にレストランeatrip(原宿)、2019年にグロサリーショップeatrip soil(表参道)、2024年にbabajiji house(祐天寺)をオープン。著書に『TASTY OF LILE』(青幻舎)、『とびきりおいしい おうちごはん』(小学館)などがある。

EATRIP JOURNAL
「衣食植住」展
WONDER VALLEY/
shed Project


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photographyKatsuhide Morimoto
textK2SHATEKI Inc.
editSohei OshiroCHIASMA

 

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