My Own Private PENDLETON vol.4
ペンドルトンが彩る日常 vol.4:鈴木成朗さん (南部鉄器・鈴木盛久工房 16代当主)
創業以来、160年以上にわたりアメリカを代表するライフスタイル・ブランドとしてそのルーツであるインディジネス・ピープルズ(ネイティブ・アメリカン)はもちろん、アメリカならではの古くて新しいオーガニックな暮らしを彩ってきた<PENDLETON>。新連載「My Own Private PENDLETON」では、そんな日常を編みながら未来へと続くカルチャーを形創る方々をご紹介します。第4回目は代々南部鉄器をつくり続ける<鈴木盛久工房>16代当主となった鈴木成朗さんの工房で、伝統を継承しながら現代に活かす「消費されないものづくり」にまつわる物語を紡いできました。
盛岡城址の東に位置する肴町にある工房は、明治17年の大火の翌年に建てられた。
地場産業、御用鋳物師、茶の湯釜
ーー<鈴木盛久工房>は2023年に鈴木さんが16代目を襲名され、工房は今年で400周年だそうですね。おめでとうございます。改めて400年続いているってものすごい時間ですよね。その歴史には及びませんが、<PENDLETON>も160年以上続いているファミリーカンパニーで、今の社長は5代目です。ウール商品に関しては素材から仕上げまで国内で生産している、実はアメリカで一番古いブランドなんです。
鈴木成朗(以下「鈴木」):アメリカという国自体の歴史と共にあるブランドなのですね。うちの創業は1625年、徳川家光が将軍の時代です。この地域は鉄資源や漆、炭など鋳物に必要な材料が採れるということで、南部藩主が地場産業にしようと各地から鋳物師と釜師を呼び寄せ、結果的に4家が御用鋳物師として抱えられたのですが、そのうちの1人が鈴木家の初代で、藩主の地元甲州から御用鋳物師として召し抱えられ、当初は仏具梵鐘を中心に、後世になると鉄瓶や茶釜をつくるようになりました。
家光もそうですが、当時の南部藩主も茶道に精通していた文化人だったそうですね。その4家を中心に派生していき、最盛期は盛岡に50軒ぐらい鉄器工房があったらしいのですが、現在は14軒ぐらいに。僕は学生時代から東京に出ていて、兄のアパレル会社の手伝いをしてから2008年に盛岡に戻って家業を継ぎました。今、工房での製作は僕と3人の職人で行っています。
<鈴木盛久工房>の代表的な作品として知られる「日の丸形鉄瓶」。
アメカジ、バッファローチェック、古着屋
ーー<PENDLETON>との出会いは東京にいた頃でしょうか?
鈴木:そうですね、その頃アメカジとか渋カジが流行っていて古着屋ブームだったんですよね。ご多分に洩れず僕も古着屋で<PENDLETON>のバッファローチェックのシャツやCPUジャケットを買って着ていましたね。デニムと合わせたりして。
当時古着屋ではシャツが4,000円か5,000円ぐらい。でもブランケットは古着でも数万円していて高かったなあ。大学の裕福な友達の別荘に行くと、あのネイティブ柄のブランケットがソファに掛けてあったのを覚えています。いろんなパターンのチェックやネイティブ柄は、思い出深いですね。スタイリストをしていた兄も<PENDLETON>は大好きでしたね。
GDC、オンラインショップ、経営
ーーお兄さんの熊谷隆志さんが90年代に立ち上げた<GDC>というアパレルブランドもネイティブ・アメリカンの柄を取り入れたりされていましたよね。鈴木さんはどういった関わり方をしていたのでしょうか?
鈴木:僕は工房を継ぐことは決めていたので、大学でも鋳金を専攻していました。技術だけでなくビジネスも学ばなければと仕事を転々としている時に、兄から「アパレルブランドを立ち上げたから一緒にやらないか?」と誘われたんです。若いうちはいろんなことをしようと考えていたし、伝統工芸とは全く違うファッションの世界もおもしろそうだなと承諾しました。一応グラフィックデザイナーという体裁で参画したのですが、社員が2人だったので荷物の発送から服の生産や展示会の運営などなんでもやりました。
当時「インターネットで服なんて売れないよ」と思われていてまだメジャーではなかったオンラインショップも、<ZOZOTOWN>ができた時に誘われ、参加してみたら成功して。物の流れ、人の流れ、お金の流れを体験して、ものすごく勉強になりました。つくるものは違えど、経営の学びを得られたので、盛岡に帰って鉄器づくりの修行を始めました。
「先人たちの作品は知識としては頭に入っているけれど、古作からは技術的なものを学び、あくまで発想は建築や家具、音楽や映画、グラフィックなど違う世界で見て影響を受けたものを鉄器に落とし込んで自分のデザインを練り、新たな価値付けをするという感じです」
昔ながらの町家作りの店舗スペースの奥に隣接する工房で、現在も<鈴木盛久工房>の製品は作り続けられている。
マスターピース、インスピレーション、新しい価値付け
ーー盛岡に戻られてから現在は襲名して工房の当主となられたわけですが、製作はもちろん経営もデザインも担うわけですよね。伝統の型や紋様もたくさんあると思うのですが、新しいデザインも鈴木さんご自身でされているんですか?
鈴木:はい。これまでこの工房でつくられてきた型は何百種類もあります。それこそ江戸時代からつくり続けているマスターピース的なものもあるし。今は先代までの代表作を残して、それ以外は僕がデザインしたりアレンジしたもののラインナップになっています。
ーー<PENDLETON>も柄のパターンが100種類以上あり、ネイティブ・アメリカンの学生などを対象にしたデザインコンペで新柄が誕生したりもしているのですが「AMERICAN INDIAN COLLGE FUND」パターン」、鈴木さんは新作をつくるにあたってどのようなものにインスパイアされていますか?
鈴木:基本的には見たことのない新しいものをつくりたいと思っているのですが、大事なのは形と紋様のマッチングだと思っています。だから先人たちの作品は知識としては頭に入っているけれど、古作からは技術的なものを学び、あくまで発想は建築や家具、音楽や映画、グラフィックなど違う世界で見て影響を受けたものを鉄器に落とし込んで自分のデザインを練り、新たな価値付けをするという感じです。そういうリミックス感覚は、アパレル時代に養ってきているので。
一から型をつくることもあれば、最近使っていない古い型と新しい柄やつまみを組み合わせてアレンジするというやり方もできます。もちろん品もあって使いやすさも装備されているのは基本ですが。
代々受け継がれてきた<鈴木盛久工房>の鉄器の設計図ともいえる鋳型や手作りの道具などが並ぶ空間の中、鈴木さんならではの感性でその歴史と現在のニーズをリミックスしながら、新たな伝統が生まれ続けている。
アニメ、世界、伝統工芸
ーー伝統工芸の今後の展望についてはどのように見えていますか?
鈴木:時代を超えてつくり続けるには住宅や家族構成はもちろん、火を使わないというライフスタイルの変化も考慮せざるを得ません。でもミニマリズムの方にだけ寄ってしまうとものづくりが均質化して面白くなくなるんですよね。昔ながらの豪華なつくりを好む人もいるでしょうし、そういう人の期待にも応えたいですしね。
伝統工芸を残さねば、とかそういうことを考える暇もなく生業としてやってきているのですが、日本で今世界から注目されているのってアニメとか漫画じゃないですか。その次が伝統工芸なんじゃないかと思っていて。大量生産できないあっと驚かせられるような手仕事が、時代が進むにつれより際立って、むしろ需要が増えるかもしれないとも考えています。そこに夢があるなと。
海外でも販売していますが、すごく売りたいというより日本文化の入り口になれば、という感じです。それは南部鉄器だけじゃなく日本のいいものや工芸全般の入り口という意味でも。
「僕は消費されるようなものではなく、家具のように愛されて大切に使いたいと思われるようなものをつくりたいんです。実際いつもそう思いながらつくっているんですよね」
クオリティ、小規模、家具のように愛して
ーー伝統工芸を続けるってとても大変なことだと思うのですが、続けるためにどのようなものづくりを心がけていますか?
鈴木:南部鉄器は決して安いものではないです。<PENDLETON>も同じだと思うんですけど、きちんとしたものをつくろうとするとある程度の価格になりますが、それだけのものをつくっているという自信もあります。製品のクオリティをキープできるのも小規模ならではの利点かと。少人数で作るから各段階での確認も確実にできるし、意思疎通がシンプルにできるんですよね。そういった見えない部分も仕上がりに影響しているはずです。
ものとしての価値で言えば家具や車と比べるとわかりやすいのですが、例えばウェグナーの椅子を買ったらちゃんとメンテナンスしながら大切に長く使うと思うんですよね。すぐに壊れる量産品だったらその椅子は捨てて別の椅子を買うでしょう。僕は消費されるようなものではなく、家具のように愛されて大切に使いたいと思われるようなものをつくりたいんです。実際いつもそう思いながらつくっているんですよね。
profile
鈴木成朗
すずき・しげお / 15代 鈴木盛久(志衣子)の次男として岩手県盛岡市に生まれる。東京藝術大学工芸科鋳金専攻卒業。スタイリストの兄・熊谷隆志によるアパレルブランド<GDC>のグラフィックデザイナーなどを経て、2008年盛岡に帰還し鉄器製作を開始。2023年、16代鈴木盛久を襲名。2025年に400周年を迎えた工房でCEO・デザイナー・職人という3足の草鞋を履き盛岡の工芸文化を伝えている。
photography:Yui Sugawara
text:Akiko Sato
edit:Sohei Oshiro(CHIASMA), Kei Sato(Shateki)
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